
地球の神秘を伝え続ける写真家、高砂淳二さんが贈る “No Rain, No Rainbow”。海や森の生き物、色とりどりの花々や虹など、自然の魅力を余すところなく捉えた作品と共に、皆さんを新たな冒 険へ誘います。地球の息吹を感じ、美しさを知り、共に学んでいきましょう。
No Rain, No Rainbow
ホッキョクグマの悲哀
北極海に浮かぶスバールバル諸島に行ってきた。“浮かぶ”と言っても、夏の間だけ海氷の多くが溶けて海に“浮かぶ”けれど、ほかの時期は氷に閉ざされる極寒の島々だ。
北緯82度付近の海に浮かんでいた大きな氷の上で、食べかけのアザラシを傍らに置いて休んでいるホッキョクグマを見かけた。船で近づく僕らに、貴重な獲物を横取りされるのではと思ったようで、慌ててアザラシを引きずって船から遠ざかり、盗られないうちに食べてしまおう、と言わんばかりに勢いよく食べ始めた。
海岸線を歩いているホッキョクグマがトナカイを襲うシーンも目撃した。実は何年か前に、食べる対象ではなかったはずのトナカイをホッキョクグマが捕まえて食べる映像が公開され、関係者を驚かせたことがあった。かれらは、長年氷上のアザラシを捕まえて食べて暮らしてきたが、温暖化で海氷が減りアザラシ猟ができなくなってきたことから、トナカイも狙うようになったようだ。
氷上にいたホッキョクグマにとって、仕留めたアザラシは、またとない、とんでもなく貴重な栄養源だったに違いない。そんなかれらの姿をカメラで追いながら、絶滅の過程を傍観しているような、何とも言えない持ちになった。
高砂淳二 Junji Takasago
写真家。1962年、宮城県石巻市生まれ。熱帯から極地まで、地球そのものをフィールドに撮影活動を続けている。国内外で写真展多数開催。TBS「情熱大陸」、NHK「スイッチ・インタビュー」をはじめ、テレビ、ラジオ、雑誌等のメディアや講演会などで、自然の大切さ、自然と人間の関係性、人間の地球上での役割などを幅広く伝え続けている。「この惑星(ほし)の声を聴く」「night rainbow」「PLANET OF WATER」など、30冊あまりの著書を発表。ロンドン自然史博物館「Wildlife Photographer of the Year 2022」自然芸術部門で最優秀賞を受賞。海の環境NPO法人OWS(The Oceanic Wildlife Society)理事。
