福岡には、自分のスタイルで生きる人がいる。仕事や肩書きに縛られず、街に馴染みながら、誰かとつながりながら、自分らしいペースで日々を重ねる。NEUTRALWORKS.が大切にするのは、ココロとカラダを整え、いつでも動き出せる「READY」な状態でいること。それは、ただフィジカルを鍛えることではなく、どんな環境で、どんな人と、どんな価値観と生きていくか。その選択の積み重ねが、本当の意味での“ニュートラル”をつくる。だから、そんな生き方をする人たちに会いにきた。ただモノを届けるんじゃなくて、この街で大切にされている価値観や、人とのつながりを知りたかったから。福岡で“自分軸”を持つ人々を「NEUTRALWORKERS.」として紹介。彼らの言葉や暮らしに、あなたの“ニュートラル”のヒントがあるかもしれない。「会いにきた。」さぁ、どんな話が聞けるだろう。

Chapter

01
瀬口賢一

インクのムラや滲みを楽しむように熱を帯びた感情を鮮明に残すこと。

瀬口賢一

編集者、文具店オーナー、印刷スタジオ主宰、アートブックイベントの仕掛け人…。瀬口賢一さんの肩書きを聞くと、いったい何足の草鞋を履いているんだ?と驚かされる。ギィーと扉が開く音がすると、瀬口さんは店主モードへと切り替わった。訪れた客と談笑し、「君にぴったりなインディゴのインクがあってさ。ほら、あの棚の上から3番目、右から2つ目」と、びっしりと商品が並ぶ店内から的確にアイテムを案内する姿は、まるで年季の入った古本屋の主人のようだ。接客が落ち着いたのも束の間、「さ、次は原稿だ」と腕をまくる。もう一度聞きたくなる。一体何足の草鞋を履いている?

絵画
本

「自分の中で軸は変わっていないんです」と瀬口さん。長年、編集者兼ライターとして言葉を紡いできた彼が、今は印刷業も営み、誰かの思いや表現を形にするサポート役に立っている。
「メッセージカードひとつ見ても、リソグラフや活版印刷 など、表現の幅はいろいろある。僕がこれまで培った編集力を合わせて、互いに共鳴し合えるものをお客さんと作っていきたいです」。

瀬口さんが最近熱を注いでいるのはジャーナリングだ。「今日のできごとや献立て、絵でもいい。SNSではなく、あえて手書きが良くて。手帳に綴るという普遍的な行為だけど、時には写経のように心や思考を整えるし、留めておきたい記憶の解像度を格段に高めてくれますよ」。
その時の感情や体験を自分の字で残す。そういう実体のあるもの、手触りのある表現、リアルな温度感が、彼の創造力とバイタリティの根源なのだ。

レター

「面白い人の好きなことの話って妙に熱を帯びてきますよね。その情熱に触れると自分も何か始めてみたくなる。だからやっぱり買い物もネットだけじゃなく、好きな人や興味ある場所でリアルに買った方が楽しいし、広がりがありますよ」。瀬口さんの多彩な肩書きはこれからも増えるのだろうか。でもきっと「誰かの思いを形にする」という一本の軸で繋がっているんだろうな。

瀬口賢一 Kenichi Seguchi

『Linde CARTONNAGE』『Y’ALL WALL』主宰。
大学卒業後、出版社に勤務し、2012年に独立。編集者兼ライターとして雑誌等の執筆や企業広告の制作業務を行う。2014年に文具店、2022年に印刷スタジオを創業。自主企画のイベントも多数。

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瀬口賢一 Kenichi Seguchi

02
大塚瞳

興味や楽しさに心から従えば、オンもオフも地続きで繋がっている。

大塚瞳

本人は無自覚かもしれないけど、料理家であり食空間演出家の大塚瞳さんは、生粋のギバーだ。自分が持つ知見や腕、センス、最大限のパフォーマンスを惜しみなく注ぎ、相手が喜ぶ姿を見ると、「じゃ!」と颯のごとく去っていく。
振り返ったらもう彼女の姿はない、なんてことがよくある。そんなかっこいい大塚さんに、プライベートをどんなふうに過ごしているのか尋ねると、「説明するより、実際に見る方がわかりやすいよね。今から家に来る?」とカフェに誘うような自然なノリで誘ってくれた。大塚邸にお邪魔すると、すてきな茶室で中国茶をもてなしてくれて、完璧な佇まいにため息が漏れる。

ごはん
大塚瞳

「自分が万全じゃないからって、断るのは嫌なんです。私、基本的にNOは言わないですね」と大塚さん。
生活におけるオン・オフの概念も「『オフ』が心身の解放なら、『オン』は大変なことを指すの?」と首をかしげる。純粋に仕事が楽しいし、その場を高揚感で満たすことに喜びを感じるから、彼女は仕事と私生活をオン・オフで区切ることはないそうだ。
「『仕事人間ですね』ってよく言われるけど、自分が好きで自主的にやっていることが結果的に仕事や人のためにつながっただけ。食も旅も、すべて私の中でつながっているんです」。

「幼少期は自由な環境で育ててもらい、18歳から食や伝統芸道の作法を学びました。“型”に従うと新たな気づきや心地よさがあるんですよね。とはいえ、異国に行けばマナーやルールがまったく異なり、それもまた面白くて。野菜に目を向けても、品種や調理法、味わい方に無限のバリエーションがあるから、探究心は本当に尽きないです。これからも多様な経験をもとに、“自分がすてきだと感じること”、“どうやったらその場が楽しくなるか”を突き詰めていきたい」。

大塚瞳

実はこの日、大塚さんは朝から深夜まで8件の予定をこなしていた。聞けば、これが彼女の通常モードだそうで、そのバイタリティに圧倒されながらも、不思議とこちらも力が湧いてくる。話の最後に、こんな言葉を残してくれた。
「仕事とかタスクというより、『今日はこんな1日を過ごすんだ』っていう感覚でいます。もしも1日の中でトラブルがあったとしても、問題の解決策はいくらでもあるから、自分がコレだと思う方を素直に選べばいい。大変なことよりいいことに目を向けて、『もう最悪〜!』と笑い飛ばせたら、それだけで勝ち。最後には楽しく笑って、ごはんを食べましょうよ。そんなふうに、今を大切にする生き方を私は選んでいます」。

大塚瞳 Hitomi Otsuka

料理家、食空間演出家。
幼少期から料理と室礼に親しみ、明治学院大学でシュールレアリスムを専攻。世界を旅しながら、出張料理や食空間を演出。福岡・佐賀で4店舗を展開し、国内外のイベントや商品開発も多数プロデュース。

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大塚瞳 Hitomi Otsuka

03
唐嶋みのり

心と身体を解放する満足感。それに気づいて日常が豊かになった。

唐嶋みのり

福岡のとある人気美容室で長年働いていた唐嶋みのりさん。昨秋に独立し、ひとりで仕事をこなしているとなれば、てっきりハードな日々を送っているだろうと思っていた。ところが彼女のInstagramをチェックすると、森、緑、旅、ときどきサロンワーク。投稿の8割が仕事を離れたアクティブな日常だ。普通ならヘアサロンのPRになる投稿をしそうなのに、朝日に照らされた稜線や自然豊かな旅先の一コマばかり。そうか、だからサロン名も『ヒュッテ』なのか。

観葉植物
椅子

数年前にボルダリングジムに通い始めたみのりさんは登山にハマり、サロンワークで120%力を出し切った後の休日は大自然に飛び込む。体はヘトヘトでも、息をのむほど美しい景色を眺めれば心をフル充電でき、また1週間を頑張れるのだという。

冒険好きな彼女を掘り下げていくと、ペースメーカーとなるご主人の存在があった。2人の関係性がとて良く、みのりさんは感情で動くタイプで、ご主人はどんな時も動じないマイペースな性格。「私が一喜一憂していると、夫がフラットな視点に引き戻してくれるんです」とみのりさん。モノに対する価値観も変化したそうで、「夫は普段からアウトドアウェアで過ごしていて、擦り切れたら『穴が開くまで着てやったぜ!』と誇らしげで(笑)。そんな彼から上質なものを長く使い切る素晴らしさを教わりました」と語る。“たくさん所有する豊かさ”から“必要なものだけを持つ豊かさ”を求めるようになった。

みのりさんは糸島に住居兼ヘアサロンを設ける予定だ。地元・長崎に似た、星空がきれいで空気がおいしい自然豊かな場所。
のびのびと過ごした幼い頃の原体験を心待ちにしている。
「“森に入る”感覚が好きで。自然界の動物たちの暮らしを観察するのが楽しいんです」。
広がる景色への好奇心と冒険心が、彼女のしなやかな自然体につながっている。足るを知りながら、自分たちらしい豊かさを育み、みずみずしい暮らしをこれからも謳歌していきそうだ。

唐嶋みのり Minori Karashima

『美容室ヒュッテ』オーナー兼ヘアスタイリスト。
長崎県佐世保市出身。ヴィンテージビルの一室で、一人で店を切り盛りする美容師。おっとりと柔らかな雰囲気を持ちながら、山登り、ランニング、クライミングなどアクティブな一面を持ち合わせる。

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唐嶋みのり Minori Karashima