
福岡には、自分のスタイルで生きる人がいる。仕事や肩書きに縛られず、街に馴染みながら、誰かとつながりながら、自分らしいペースで日々を重ねる。NEUTRALWORKS.が大切にするのは、ココロとカラダを整え、いつも動き出せる「READY」な状態でいること。それは、ただフィジカルを鍛えることではなく、どんな環境で、どんな人と、どんな価値観と生きていくか。その選択の積み重ねが、本当の意味での“ニュートラル”をつくる。だから、そんな生き方をする人たちに会いにきた。ただモノを届けるんじゃなくて、この街で大切にされている価値観や、人とのつながりを知りたかったから。福岡で“自分軸”を持つ人々を「NEUTRALWORKERS.」として紹介。彼らの言葉や暮らしに、あなたの“ニュートラル”のヒントがあるかもしれない。「会いにきた。」さぁ、どんな話が聞けるだろう。
Chapter
01
高橋漠
ニュートラルな自分の軸は、時とともに変わり続けるもの。

「海水浴が好きです。近所の海がきれいで、波に揺られながら海に潜ると、世界に自分しかいないような感覚になる。それこそ誰にも惑わされない、ニュートラルな心地で──」。
そう語るのは、ガラス作家の高橋漠さん。以前のなにかのインタビューで「制作において心のバランスを調整し続けている」と語っていた。創造力や技術だけでなく、心身と向き合い、変化を受容し、じっくり整えるのだと。その手段を尋ねたら、前述の“海の時間”を教えてくれた。今は子育てもあって一人の時間が取れていないようだが、話を続けるとまた別の“整え方”が見えてきた。


ガラス工芸で彼が最も好む作業は、ドロドロに溶けたガラスを扱う工程。水飴みたいにビョーンと伸びるため、垂れないように竿を回転させながら整形していく。一瞬の判断ミスが許されない、集中力と精緻な動きが求められる作業だ。本人曰く、若い頃は気が短く失敗も多かったが、子どもの誕生をきっかけに思考の整理を行い、状況を俯瞰することで平常心を保てるようになったという。そうしたマインドセットの変化が、仕事にも良い影響をもたらしている。また、「良い作品をつくるための努力は苦にならないけれど、自分の不調や雑念で仕事に集中できないのは避けたい」と、身体のケアも欠かさない。長年の肩こりはヨガとストレッチで改善し、制作に向き合うコンディションがずいぶん整った。ちなみに作業で汗をかくことが多いが、そんな時は汗のニオイが気にならない〈NEUTRALWORKS.〉のウエアの出番だ。

ふと静かな表情で、漠さんは「自分自身の“ニュートラル”って、変わり続けるものかもしれない」と呟いた。「気が短かった頃も、大学時代のふざけた自分も、泣き虫だった幼少期も。その時々で、それが自分のニュートラルだった。これからも環境や年齢とともに変化する自分に合わせて、ニュートラルの位置を調整し続けていきたい」。
漠さんが向き合い続ける心の旅路。自由さやダイナミックさを増す作品にも映し出されるに違いない。
高橋漠 Baku Takahashi
ガラス作家、〈TOUMEI〉主宰。
多摩美術大学でガラス工芸を学び、2015年より福岡を拠点に活動を開始。
ガラスを素材とする立体作品を発表しながら、ガラス作家の妻・朋子さん
とともにガラスウェアブランド〈TOUMEI〉を主宰。
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02
佐々木まい
完璧を求めず、できることを楽しむ。私らしい「ちょうどいい」の選択。

もしも福岡を舞台に「釣りバカ日誌」が繰り広げられるとしたら、ヒロインはまちがいなく“まいさん”だと思う。糸島にある漁港で小さな店を営み、自分がいいと思う商品をひたむきに届ける佐々木まいさんだ。無骨な漁師たちも彼女の笑顔にすっかりメロメロである。


そんなまいさんが営む雑貨店は、環境にやさしい生活用品とプラントベース食品を扱うお店だ。「環境に負荷をかけないようにしよう」「ヴィーガン生活をめざそう」と思うと、ハードルが高いと感じる人もいるかもしれないが、まいさんは言う。
「深刻にならず、無理せず楽しめる程度でいいですよ。できる人ができることをやる。その方が気楽に続けられるでしょう」と。
かく言う彼女も最初から柔軟な思考だったわけではない。環境問題に目覚めた当初は「お肉や乳製品を食べないことが地球環境を守る一番のアクション」と頑なだったとか。徹底的な制限が自分を苦しめると気づき、“ちょうどいい塩梅”を探り始めた。今では友人との食事会や旅行先では時々お肉も口にする。「本格的なヴィーガンから見たらズボラかもしれないけど、私には今のバランスが最適」。大切にするのは、制限ではなく選択の自由。“あれもダメ、これもダメ”ではなく、“こういう手段を選んで楽しもう”と広い視野で捉えるニュートラルな思考だ。

店に並ぶ商品も彼女の哲学が反映されている。正しさだけでは手に取ってもらえない。おしゃれで、使いやすく、おいしくて、実は環境にもいいという楽しさが重要なのだと語る。「いつか完全量り売りのプラスチックゼロのスーパーを開きたいです。植物性ミルクを選ぶのに追加料金がいらないくらい、この考え方が当たり前になってほしいな」。
店を後にしながら考えた。彼女が見つけた“ちょうどいい塩梅”は、強い信念を持ちながらも柔軟性を失わない姿勢だ。完璧を求めず、自分の最適解を選ぶ。その好循環が、ヘルシーな暮らしを楽しく続ける一番の近道なのかもしれない。
佐々木まい Mai Sasaki
『365』オーナー。
週に1日だけオープンする、環境に配慮した生活用品やプラントベース食品のセレクトショップを運営。インスタグラムでもエコな暮らしのヒントやグルテンフリーのレシピなど、身近なトピックを発信中。

03
NOSK
人と会う、話す、表現する。目指すのは、しなやかな“満喫力”。

クライアントワークの傍ら、イベントにパーティーに引っ張りダコのNOSKさん。どんなに忙しくても、ストレスの「ス」の字も見えないほど身のこなしが軽やかで、地に足のついた安定感もある。いつも笑っていて、みんな彼のことが大好きだ。引っ越したばかりの新居を訪ねると、「ちっす!」とウェルカムな空気で迎えてくれた。リビングの大きなテーブルが、デザインや音楽、展示会の作品づくりの舞台だという。でも、なんとなく彼には家でじっと作業しているイメージがない。
「よく外に出て人と会っていますね。僕の中では人と会うことや会話もアウトプットの一つ。手を動かすことが好きだから自己完結で制作できるけど、“めっちゃいいじゃん!”って感じるクリエイションは、人を介してできたものなんです」。


自分のコンディションの上げ方を理解して、ナチュラルかつ軽やかに動けるって理想的。では、活動的でいるために心がけていることは?
「『同じ人は1人もいない』と思うこと。その感覚があれば、他者への興味や理解、新たな視点が生まれて、どんな状況も楽しめるようになるから」。
たしかに彼の作品も、多様な見え方ができる。誰も傷つけず、人それぞれの感覚で楽しめるアートワークだ。会話の中でもう一つ、彼の軽やかなスタイルを紐解くキーワードが飛び出した。
「前に、自分の作品が『縄文っぽい』と言われたことがあって、それから縄文時代にシンパシーを感じちゃって。まだ富の蓄積の概念がなく、みんなが平等で豊かな時代。当時の『今を満喫する』姿勢は、僕の目指すところ。だから今の資本主義社会を楽しみつつ、好きなことや表現を満喫していきたいですね」。

今、スタジオ兼お店をつくる構想を大事に温めているらしい。公園や公民館みたいに子どもから大人まで、いろんな層の人が交われるコミュニティスペースだ。きっとその場所で、NOSKさんのハッピーでピースな“満喫力”がいろんな人に派生していくのだろう。僕らも絶対に行きたいと思う。
NOSK
グラフィックデザイナー、DJ、アーティスト。
クリエイティブコレクティブ集団〈CCS records.〉所属。
パーティ&レーベル〈JILI JILI POT〉主宰。
グラフィックデザインを軸に、幅広い分野で活動しながら、パーティの主宰や九州各地でDJも務める。
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