
福岡には、自分のスタイルで生きる人がいる。仕事や肩書きに縛られず、街に馴染みながら、誰かとつながりながら、自分らしいペースで日々を重ねる。NEUTRALWORKS.が大切にするのは、ココロとカラダを整え、いつでも動き出せる「READY」な状態でいること。それは、ただフィジカルを鍛えることではなく、どんな環境で、どんな人と、どんな価値観と生きていくか。その選択の積み重ねが、本当の意味での“ニュートラル”をつくる。だから、そんな生き方をする人たちに会いにきた。ただモノを届けるんじゃなくて、この街で大切にされている価値観や、人とのつながりを知りたかったから。福岡で“自分軸”を持つ人々を「NEUTRALWORKERS.」として紹介。彼らの言葉や暮らしに、あなたの“ニュートラル”のヒントがあるかもしれない。「会いにきた。」さぁ、どんな話が聞けるだろう。
Chapter
01
久川誠太朗
カオスの先にある、ニュートラルな視座。
多様な世界を知り自分の軸を見つける

毎日10kmのランニングが日課で、時折トレイルランも楽しみ、仕事では山や田畑など自然と触れ合う久川さん。新年を雪山で迎え、今年も九重連山を登ってきたそうだ。なぜわざわざ年末年始に登るのかと聞くと、特別な理由はなく理屈じゃないという。「まずは一度、山に登って感じてみてよ。あとは自分で判断すればいい」とまっすぐな笑顔が返ってきた。“Don’t think, feel!” に加え、“And think about it!” といったところか。


久川さんとオフィスで打ち合わせを済ませ、気分転換を兼ねてそのまま一緒に油山を登ることにした。山道を進みながら、そもそもニュートラルとは何だろうという話題へ。
「辞書では『偏りがない』という意味だけど、まずはいろんな人と対話し、異なる価値観に耳を傾け、思考を巡らせてカオスになるまで考え抜いた先に、フラットな感覚が残ると思うんだよね。その境地が“ニュートラル”なんじゃないかな」。
この考え方は、彼が代表を務める「株式会社フリップザミント」の理念にも通じる。「ミント」はお金・貨幣、「フリップ」はひっくり返すという意味。つまり、「自分たちが良いと思っていることも、視点を変えれば違って見えることがある」と示唆している。物事に対してひとつひとつ自問自答するバランス感覚が必要だと、社名に込めたのだ。
大人になると好きなコミュニティだけに属し、先入観や固定概念に縛られがち。しかし、価値観の異なる人と関わることで新しい世界を知ることもある。自分の信念を大切にしながらも固執せず、新しい視点を受け入れる余白があれば、より豊かな関係性が生まれる。

ところで、先日の飲み会で深夜5時に解散した後、5kmランニングして帰ったって本当?
「10kmは走りたかったんですけどね。そうそう、この前フルマラソン大会の後、クタクタの状態で〈NEUTRALWORKS.〉のボクサーパンツに穿きかえたら最高だった! なめらかな生地とシームレスな着心地に包まれて、そこからまた40km走り出せそうなくらい体が軽く感じましたよ」。
久川さんの言う通り、モノも経験も“Don’t think, feel! And think about it!”なのである。
「それこそ山や海で出会う人は、肩書きに関係なく純粋な人間として付き合える。そういうボーダレスな関わりが心地いいし、助け合うカルチャーも好き。一生を通じてできるだけ多くの世界を見て、広い尺度を持ちたいな。肉体的にも誰かを守れる強さを持てば、内面に余裕が生まれて人にやさしくなれるはず。だから、俺の生涯のテーマは“強くなる”っスね」。
久川誠太朗 Seitaro Hisakawa
〈HiKEI〉主宰。
オーガニックコットンを中心としたアパレルアイテムや、天然精油のフレ
グランス製品を展開するマテリアルブランドを主宰。
NEUTRALWORKS.FUKUOKAの限定商品であるフレグランスの制作を担当。
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02
Teppei
奇跡のワンストロークが連なり、解体と再構築でたどり着く新境地。

彼は自分のことを画家ではなく、「抽象漫画家」と名乗る。メディアでは顔を出さないため謎めいた存在だが、アトリエには手塚治虫の「どろろ」などの名作コミックが並び、漫画への敬愛が滲んでいた。そんなTeppeiさんが用いるのは「abstract manga」という表現法。物語の背景や疾走感を独創的な世界観で描く、彼の頭の中とは? また創作ではどのように「READY」な状態をつくるのか聞いてみたい。


目に飛び込んできたのは、2mもの大判キャンバス画と分厚く重なった小さなキャンバス画。素人目には立派な作品だが、本番のために描いたものではないとTeppeiさんは語る。
「いつでも“自分の表現”を発表できる状態でいたいし、常にニュートラルな感覚でいたいから、毎日何かしら一つは描いています。メモ帳や領収書の裏にも描くから、気づかず捨てちゃったりして」。
発表ありきの制作ではないけど、いつでも表に出せる作品たち。ここぞという機会に備え、日々コンディションを整える。
「極論を言うと、描きたいから描いているだけで」と、筆やペンがこすれる音、ストロークのリズムを楽しみながら、自分の世界に没入する。これが彼にとって心落ち着く時間なのだ。

親近感が湧いたのが、感情との向き合い方。悔やんだりモヤモヤしたりすると創作意欲が湧くそうで、そこに漫画好きの無垢な心が垣間見られた。
『呪術廻戦』って改めてすごいなぁと。人間の負の感情をエネルギーに変える設定なんですが、あの漫画から悔しさや怒りを他者に向けても何も生まれないことを学びましたね。僕もなにかあったら『自分は呪術師だから』と思って、モヤモヤを創作活動の燃料にしてとにかく描く。必死に打ち込むと、新境地に辿り着けるっすよ」
少年のように微笑みながら見せてくれたのは、30分で一気に描き上げた大判の作品。筆を走らせる一瞬のワンストロークがどれだけ生きているかが大事だという。そのリアルな手応えを求めて、Teppeiさんは今日も描き続ける。
Teppei
抽象漫画家。
幼少期よりバトル漫画家を目指し、絵を描き始める。
美術や歴史を学ぶ傍ら、多層のビジュアルや実験的構成を駆使する「抽象漫画」を制作。NEUTRALWORKS.FUKUOKAとのコラボTシャツも担当。
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03
髙須学
主観を無意識に手放したとき、アイデアと創造は自由になる。

佇まいはシンプルなのに上品でスタイリッシュ、仕事や生き方もかっこいい。なにか一つ尋ねると「これがこうなんだよ」って背景まで教えてくれる憧れの先輩みたいな。そういう存在として、知人に紹介してもらったのがインテリア・プロダクトデザイナーの髙須学さん。


雑談から入ると、51歳の髙須さんは昨夏からバスケットを始めたそうだ。
「本格的にやるのは中学以来、35年ぶり。昔とルールが様変わりしていて驚いたけど、新しいテクニックを攻略するのが楽しい」。
そう語り、週に一度の練習に通い、翌日に東京へ飛び、週末に帰福する2拠点生活を送っている。各地を飛び回る髙須さんは、オンとオフをどう切り分けているのだろう。
「オンが仕事中だとすると、ベストなコンディションを保つためにオフの時間を意識的に作っています。スポーツをしたり、人と会ったり。そういう日常のコミュニティから新しいアイデアが生まれるから、オフだけど主電源は入っている感じかな。無意識の間に頭が整理されることが多くて、主観を客観的に捉えた時に一番クリエイティブになれると思います」。

せっかくなので、服選びのこだわりについても聞いてみた。
「作り手の顔が見える、国内で丁寧に作られた服を選んでいます。素材や着心地もポイント。心地よく快適でいられるように、生地に吸湿性や防臭性があると助かりますね」。
大切なのは、どれだけ自然体で心地よくいられるか。それは仕事も同じで、“好きなことをする”以上に“嫌いなことはしない”を重視する。例えば人に迷惑をかけない、誰かが喜ぶことをどう実現できるかを丹念に考える。本質は、意外とシンプルかもしれない。
「デザインは変幻自在でいい。エゴを押し付けず、みんなが本当にハッピーになれることを一緒に考えたいですね」と髙須さん。時代に左右されない美しさを追求する彼の姿勢は、生き方そのものにも表れていた。「好き・嫌いを見極め、無理をせず、自分が大切にしたい軸を持ち続けること。それが僕にとってのニュートラルなマインドですね」。
髙須学 Gaku Takasu
インテリア・プロダクトデザイナー。
TGDA(Takasu Gaku Design and Associates)を設立し、福岡と東京を拠
点に商業空間のデザインや住空間の設計、プロダクトのデザイン開発を行
う。グッドデザイン賞等受賞歴多数。
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